特定技能「農業」分野ガイド|季節労働と受入の特徴を解説
日本の農業就業人口は2025年時点で約120万人まで減少し、そのうち65歳以上が 約70%を占めるなど、高齢化と担い手不足が深刻な課題となっています。 特定技能「農業」分野は、こうした農業分野の人材確保を目的として設けられた 在留資格であり、他の分野にはない「派遣形態」が認められている点が 大きな特徴です。本ガイドでは、農業分野の特定技能制度を出入国在留管理庁 および農林水産省の公開データに基づいて詳しく解説します。
1. 農業分野の特定技能制度概要
特定技能「農業」分野は、出入国管理及び難民認定法に基づく在留資格であり、 農林水産省が所管しています。農業分野では現在、特定技能1号のみが 認められており、在留期間は通算で最長5年です。
📊 農業分野の受入れ見込み数
2024年3月の閣議決定により、農業分野の特定技能受入れ見込み数は 2024〜2028年度の5年間で78,000人と設定されました。前期間(2019〜2023年度) の36,500人から大幅に拡大されています。
農業分野の業務区分は「耕種農業」と「畜産農業」の2つに分かれています。 耕種農業では栽培管理、農産物の集出荷・選別など、畜産農業では 飼養管理、畜産物の集出荷・選別などの業務に従事できます。 また、これらの業務に付随する作業(農畜産物の製造・加工、運搬、 販売の作業など)も行うことが認められています。
農業分野は季節によって繁忙期と閑散期の差が大きく、また地域によって 栽培品目や作業内容が異なるため、柔軟な人材配置が求められます。 この特性を踏まえ、特定技能では農業分野に限り、労働者派遣形態での 受入れが特例として認められています。
2. 季節労働と派遣形態の特徴
農業分野における最大の特徴は、特定技能14分野の中で唯一(漁業と並んで)、 労働者派遣形態での雇用が認められている点です。この制度は、農業特有の 季節性に対応するために設けられました。
直接雇用と派遣雇用の比較:
| 項目 | 直接雇用 | 派遣雇用 |
|---|---|---|
| 雇用形態 | 農業経営体が直接雇用 | 派遣事業者が雇用、農家に派遣 |
| 対象企業 | 農業を営む個人・法人 | 農協、派遣事業者等 |
| 季節対応 | 通年雇用が基本 | 繁忙期に合わせた柔軟な配置が可能 |
| 支援体制 | 受入れ機関が支援計画を実施 | 派遣元が支援計画を実施 |
| 報酬水準 | 月給制が一般的(約18〜25万円) | 時給制が多い(約1,000〜1,300円) |
派遣形態の場合、派遣元事業者は労働者派遣法に基づく許可を受けている 必要があるほか、農業分野での実績や知見があることが求められます。 また、閑散期においても外国人材の雇用を継続し、安定した収入を確保 するための措置を講じる必要があります。
ℹ️ 派遣形態のメリット
派遣形態を活用することで、小規模農家でも繁忙期に限って外国人材を 受け入れることが可能になります。例えば、春の田植え時期はA農家、 秋の収穫時期はB農家というように、複数の農業経営体を移動しながら 年間を通じて就業できる仕組みです。
3. 受入要件と技能試験
農業分野で特定技能1号の在留資格を取得するためには、以下の要件を 満たす必要があります。
(1)農業技能測定試験:一般社団法人全国農業会議所が 実施する技能試験に合格すること。試験は「耕種農業」と「畜産農業」の 2区分で行われ、学科試験と実技試験(写真やイラストを用いた判断試験) で構成されます。試験は日本国内のほか、フィリピン、インドネシア、 タイ、ベトナム、カンボジアなど各国で実施されています。
(2)日本語試験:日本語能力試験(JLPT)N4以上、 または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)に合格すること。
(3)技能実習からの移行:技能実習2号を良好に修了した方は、 農業関連の職種・作業であれば試験が免除されます。農業分野では 技能実習からの移行者が全体の約60%を占めています。
📊 農業技能測定試験の実施状況
農業技能測定試験は国内外で年間複数回実施されており、 受験者数は年々増加傾向にあります。合格率は耕種農業が 約65%、畜産農業が約70%程度で推移しています。
4. 受入実績データと地域別動向
出入国在留管理庁の統計によると、農業分野の特定技能在留外国人数は 着実に増加しています。
| 時期 | 在留者数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2021年6月 | 約4,100人 | - |
| 2022年6月 | 約9,200人 | +124% |
| 2023年6月 | 約16,500人 | +79% |
| 2024年6月 | 約24,800人 | +50% |
| 2025年6月 | 約30,000人 | +21% |
地域別では、北海道、茨城県、千葉県、熊本県、長野県が受入数の上位を 占めています。特に北海道は畑作・酪農の繁忙期における労働需要が大きく、 派遣形態を活用した受入れが盛んです。国籍別ではベトナム、インドネシア、 フィリピン、ミャンマー、カンボジア出身の方が多くを占めています。
農業分野では耕種農業の受入数が全体の約65%、畜産農業が約35%という 比率になっており、特に野菜・果樹の栽培管理や収穫作業での需要が 高い傾向にあります。
5. 受入れ企業が行うべき生活支援
農業分野では、就業場所が地方の農村部であることが多く、公共交通機関が 限られている地域も少なくありません。そのため、受入れ機関には 外国人材の生活環境を整備する上で、特に以下の点に配慮が求められます。
住居の確保:農業地域では民間の賃貸住宅が少ない場合があり、 受入れ機関が社宅や寮を提供するケースが一般的です。家賃は給与から 控除する場合、適正な金額(月額2〜3万円程度)とし、雇用契約書に 明記する必要があります。
移動手段の確保:農場と住居間の送迎、買い物や通院のための 移動手段を確保することが重要です。社用車の貸与や送迎バスの運行など、 具体的な支援を支援計画に盛り込みましょう。
日本語学習の機会提供:地方部では日本語教室が限られるため、 オンライン学習環境の整備や、地域の国際交流協会との連携が有効です。 詳しくは外国人材の日本語教育ガイドをご参照ください。
⚠️ 労働条件に関する注意事項
農業は労働基準法の一部規定(労働時間、休憩、休日)の適用が除外される 業種ですが、特定技能外国人については、雇用契約において適切な労働条件を 設定し、過重労働とならないよう配慮する必要があります。 具体的な労働条件の設定については行政書士に相談しましょう。 また、外国人採用の基本フローや外国人材の生活支援ガイドも参考にしてください。